福島県橋梁点検調書を統合マスタへ変換した内部PoC

建設DX

この記事で示していること

福島県独自の橋梁点検Excel帳票を対象に、固定セル情報、写真メタ情報、オートシェイプによる評価情報まで読み取り、約1,900列規模の統合マスタへ構造化する内部PoCを実施しました。

単にExcelから値を抜き出すのではなく、橋梁点検実務上の意味を読み取り、機械処理可能なデータ構造へ翻訳することを目的とした検証です。

維持DXでは、このような建設実務とシステム実装の間にある帳票解析・要件整理・データ構造設計を主な技術領域の一つとしています。

福島BIST 技術記事シリーズ

本記事を入口として、福島県版橋梁点検調書の内部PoCで扱った技術要素を以下の記事で個別に整理しています。

何を実装対象にしたのか

福島県版の橋梁点検調書を対象に、既存成果として作成済みのExcel帳票から情報を抽出し、専用の統合マスタへ構造化する内部PoCを行いました。

対象は単一橋・3径間サンプルです。今回実装したのは、既存成果から統合マスタへ情報を取り込む処理であり、維持DX内部では国交省様式対応ツール群の「V03相当」と整理しています。

確認した主な範囲は、次のとおりです。

  • 固定セルに格納された橋梁基本情報
  • 写真番号やコメント等の写真メタ情報
  • オートシェイプの配置で表現された評価情報
  • 径間・部材等の反復構造
  • 約1,900列規模の統合マスタヘッダー生成

今回の目的は、福島県版の完成製品を作ることではありません。

自治体独自Excel帳票に埋め込まれた業務上の意味を読み取り、後段の処理に使えるデータ構造へ翻訳できるかを確認することが中心でした。

国交省様式対応ツールとの関係

維持DXでは、国交省様式を対象として、橋梁点検調書の作成支援、評価結果一覧の生成、旧様式から現行様式への移行、成果品の整合確認などを行う無料ツールを公開しています。

今回の福島県版PoCは、これらへ単純に機能追加したものではありません。

国交省様式で検証してきた「既往成果を構造化して中間データへ落とす」という考え方をベースにしながら、福島県独自様式についてセル構造、写真情報、Shape評価、反復規則を改めて解析した独立したローカライズPoCです。

国交省様式対応の公開ツールについては、以下から確認できます。

維持DXの無料ツール一覧を見る

単純なExcel取込では済まなかった理由

Excel帳票を読み取るだけなら、セル番地を指定して値を取得できます。

固定セルだけを対象とするのであれば、それでも処理できます。

しかし、橋梁点検調書は単純な入力表ではありません。

1つのブック内に、基本諸元、径間別情報、部材別情報、写真情報、評価情報、コメント、選択肢、図形表現などが混在しています。

しかもExcel上の構成は、人間が帳票として読むことを優先しており、そのままデータベースとして利用できる形にはなっていません。

たとえば、同じ帳票内に次のような情報が存在します。

  • 橋梁名、所在地、橋長などの固定セル情報
  • 径間ごとに繰り返される情報
  • 部材、損傷種類、損傷程度に対応する評価情報
  • 写真番号、撮影位置、コメントなどの写真メタ情報
  • セル値ではなくオートシェイプの配置で表現された評価
  • 帳票上の配置や周辺情報から読み手が意味を判断している部分

このような帳票では、セル値を一覧化するだけでは実務上利用できるデータになりません。

どのセルがどの項目を意味するのか、どの範囲が径間単位で反復するのか、写真情報と評価情報をどの単位で結び付けるのかを先に解釈する必要があります。

この解釈を飛ばして実装すると、Excelから値は取得できても、後段の一覧生成、照合、整合確認、過年度比較などに使えるデータ構造にはなりません。

帳票上の表示構造と業務上のデータ構造を分ける

今回の中心課題は、Excel上の表示構造と、橋梁点検実務上のデータ構造を分けて考えることでした。

Excel帳票では、読み手にとって分かりやすいようにセル結合、空白行、罫線、見出し、図形などが使われます。

一方、機械処理では、項目名、キー、反復単位、未入力と対象外の区別などを明示する必要があります。

そこで帳票を見た目のまま再現するのではなく、含まれている情報を次のような層に分解しました。

  • 固定セルとして取得できる基本情報
  • 径間や部材に対応する反復情報
  • 写真単位で管理すべきメタ情報
  • 評価項目として扱う情報
  • 座標や配置から意味を読み取る必要がある情報
  • 自動抽出してよい情報
  • 人間が実務上の意味を確認すべき情報

この分解によって、Excel帳票を単なるファイルではなく、複数の情報層を持った入力ソースとして扱えるようになります。

この「帳票の表示」と「業務上の意味」を切り分ける作業については、自治体独自の橋梁点検調書に実務翻訳が欠かせない理由で詳しく整理しています。

統合マスタは出力表ではなく中間データ層である

今回作成した統合マスタは、提出用の一覧表そのものではありません。

既存成果から抽出した情報を受け止め、後段の処理へ渡すための中間データ層です。

統合マスタには、固定セル由来の基本情報、写真メタ情報、オートシェイプ座標から読み取った評価情報、径間別・部材別の反復項目などを格納します。

列数は約1,900列規模になりました。

ただし、重要なのは列数の多さそのものではありません。

橋梁点検調書では、同じ種類の情報が径間、部材、損傷、写真などの単位で繰り返されます。

これを手作業で列名として並べるだけでは、後から構造を追えなくなります。

そのため、基本項目と反復項目を分け、反復項目には処理単位が分かる命名規則と生成規則を持たせました。

これにより、統合マスタを単なる横長のExcelではなく、後段処理へ渡せるスキーマとして扱えるようになります。

約1,900列規模のヘッダーを手入力ではなく反復規則から生成した考え方については、橋梁点検調書で約1900列ヘッダーを生成した考え方で詳しく扱っています。

オートシェイプで表現された評価をどう扱ったか

福島県版の調書では、一部の評価情報がセル値ではなく、オートシェイプの配置によって表現されていました。

この場合、セルを読み取っても評価値そのものは取得できません。

そこで、図形を取得して座標を読み、その図形が評価表上のどの領域に置かれているかを判定し、業務上の評価項目へ対応付ける処理を行いました。

概念的な処理は次のようになります。

  • 対象シート上のShapeを走査する
  • Shapeの中心座標を取得する
  • 評価表上の対象領域に含まれるか判定する
  • 座標位置から対応する評価区分や対象行を判定する
  • 対応する統合マスタ列へ格納する
  • 分類できないShapeは無理に確定せずログへ残す

ここで難しいのは、図形の座標を取得するコードを書くことではありません。

その座標が橋梁点検実務上の何を意味するのかを確定することです。

Excel上の図形は、データベース上の値ではなく帳票上の表現です。

したがって、評価表の行、列、領域と、業務上の評価項目との対応関係を先に整理する必要があります。

このShape解析部分については、橋梁点検調書のオートシェイプ座標から評価を読む方法で個別に整理しています。

人間が解釈した部分

このPoCで人間の判断が必要だったのは、主としてコードを書く場面ではなく、帳票の意味を確定する場面でした。

たとえば、同じように見えるセルでも、基本情報なのか、写真に紐づく情報なのか、評価項目なのかによって扱いは変わります。

図形の配置についても、単なる見た目ではなく、評価欄のどこに置かれているかによって意味が決まります。

また、径間や部材の反復構造は、Excel上で明示的なデータテーブルとして定義されているとは限りません。

見出し、罫線、配置、周辺セル、実務上の読み方を組み合わせて、どの単位でデータを展開すべきかを決める必要があります。

AIやVBAは、確定済みのルールに従って処理することはできます。

一方で、

「このセルは業務上何を意味しているのか」

「このShapeの位置はどの評価を示しているのか」

「この反復ブロックをどの単位でデータ化すべきか」

といった実務上の意味を確定する工程は別に存在します。

今回の実装で能力証明になり得るのは、単にExcelから値を抜き出したことではありません。

自治体独自の橋梁点検帳票を、橋梁点検実務上の意味を保ったまま、システムで扱えるデータ構造へ翻訳したことにあります。

ベンダー実装で支援できる部分

自治体独自帳票を扱うシステム開発では、プログラムを書き始める前に、その帳票が実務上どのような意味を持ち、どの情報同士が関連しているのかを整理する必要があります。

特に建設維持管理分野では、発注者様式、過年度成果、Excel、PDF、写真、CAD、一覧表などが併存し、画面上の表示と業務上のデータ構造が一致しないことがあります。

維持DXでは、こうした案件に対して、

  • 現行帳票・成果品の構造解析
  • 項目意味の整理
  • セル・Shape・写真等と業務データの対応整理
  • 反復構造・キー項目の整理
  • 中間データ構造の設計
  • ITエンジニアが実装可能な仕様への翻訳
  • 実装結果が実務上成立しているかの確認

といった、建設実務とIT実装の間の工程を支援対象として考えています。

システムそのものを大規模に置き換えるのではなく、既存業務・既存システム・既存成果を理解した上で、実装に必要な実務仕様を整理することが基本的な立ち位置です。

実装済みの範囲と未実装の範囲

単一橋・3径間サンプルでは、既存成果から統合マスタへEnd-to-Endで情報を取り込めるところまで確認しています。

現時点で実装済みとして扱っているのは、次の範囲です。

  • 固定セル情報の取込
  • 写真メタ情報の取込
  • オートシェイプ座標からの評価情報読取
  • 約1,900列規模の統合マスタヘッダー生成

一方、福島県版では、評価結果一覧生成、帳票再出力、過年度比較、差分抽出、整合確認、複数橋一括処理、国交省様式との出力連携、一般ユーザー向けUIなどは現時点では実装していません。

統合マスタを基盤として設計上の拡張余地はありますが、未実装のものを実装済み機能として扱わないことを前提としています。

国交省様式では既に別ツールとして一覧生成、様式移行、成果整合確認等を実装していますが、それらを福島県版へそのまま移植したわけではありません。

統合マスタを今後どのような基盤として利用できるかについては、統合マスタから考える自治体評価体系と将来拡張の設計で、実装済み範囲と将来構想を分けて整理しています。

他自治体や製品実装へ一般化できる部分

このPoCで一般化できるのは、福島県のセル番地そのものではありません。

一般化できるのは、自治体独自帳票を読み解き、データ構造へ変換するための手順です。

様式が変われば、セル番地、シート構成、図形配置、評価体系などは当然変わります。

一方で、問題の型には共通する部分があります。

  • 固定セル情報を抽出する
  • 反復ブロックを見つける
  • 写真やコメントをメタ情報として扱う
  • 図形や選択記号に埋め込まれた意味を読み取る
  • 業務上の単位に合わせて中間データ構造を設計する
  • 自動抽出できる項目と人間確認が必要な項目を分ける

この考え方は、別の自治体様式だけでなく、道路附属物、トンネル、河川管理施設台帳など、類似した帳票構造を持つ分野へ応用できる可能性があります。

ただし、様式が変わればセルマッピングと実務意味の確認はやり直しになります。

既存コードをコピーするだけでローカライズできるわけではありません。

再利用できるのは、帳票構造を分析し、実務上の意味を確定し、その結果を実装可能な仕様へ変換する設計プロセスです。

なぜ出力機能より構造化を優先したのか

今回のPoCでは、統合マスタから評価結果一覧や提出用帳票を生成するところまでは実装していません。

一般利用者向けツールとして見れば、出口機能がないため分かりにくい構成です。

しかし、自治体独自様式への対応を技術課題として見ると、出力処理より前に、

「既存帳票に埋め込まれている意味を正しく取り出せるか」

という問題があります。

統合マスタが実務上の意味を保っていれば、その上に一覧生成、比較、整合確認、再出力などの個別処理を設計できます。

逆に、中間データの段階で意味が崩れていれば、後から出力画面を整えても実務では使いにくいものになります。

そのため今回のPoCでは、見た目に分かりやすい出口を急ぐのではなく、固定セル、写真メタ情報、Shape評価、反復項目を1つの中間データ層へ落とし込むことを優先しました。

製品デモとしては地味な部分ですが、自治体帳票ローカライズでは避けて通りにくい工程です。

ローカライズの成果として残るもの

この種のPoCで残すべき成果は、動作するマクロだけではありません。

重要なのは、

  • 固定セルマッピング
  • 写真メタ情報の対応関係
  • Shape評価の読取規則
  • ヘッダー生成規則
  • 警告条件
  • 未確定項目
  • 未実装範囲

といった設計情報です。

コードだけが残っても、別様式へ移ると再利用しにくくなります。

一方、どの帳票要素をどのデータ構造へ翻訳したのかが残っていれば、別自治体や別帳票へ展開する際にも、再利用可能な部分と再確認が必要な部分を切り分けられます。

まとめ

福島県版橋梁点検調書を対象とした内部PoCでは、既存Excel成果から固定セル情報、写真メタ情報、オートシェイプによる評価情報を読み取り、約1,900列規模の統合マスタへ構造化するところまで確認しました。

これは福島県版の完成製品ではありません。

このPoCで確認したかったのは、自治体独自Excel帳票に含まれる橋梁点検実務上の意味を読み取り、機械処理可能なデータ構造へ変換できるかという点です。

コードを書くこと以上に、帳票構造を読み、項目の意味を確定し、システム実装可能な仕様へ翻訳する工程が重要になります。

福島BISTは、その工程を実際の自治体独自様式を題材に確認した参照実装として位置付けています。

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