導入
2026年度の技術士第二次試験、建設部門の必須科目Ⅰでは、新技術やDXの活用によってインフラの価値向上、インフラサービスの高度化を考える趣旨の出題がありました。
この手のテーマは、一見すると書きやすそうに見えます。
AI、ドローン、BIM/CIM、センサー、データ連携、クラウド、遠隔監視。建設DXでよく出てくる技術名は多く、答案の材料には困らないようにも感じます。
しかし、実際に書こうとすると、技術名を並べるだけではかなり弱い。
受験後に振り返っても、この問題で重要だったのは、新技術の紹介ではなく、「新技術を使う前に、既存業務のどこが詰まっているのか」を整理することだったと感じています。
インフラDXは、大きな政策論として語られがちです。けれども、実務者の目線で見ると、かなり泥臭いところに壁があります。
帳票が分散している。Excelが分散している。PDF成果品が最後に残る。写真とコメントの対応を人間が追っている。自治体ごとに様式が違う。同じ情報を何度も入力している。
この状態のまま新技術を導入しても、インフラサービスの高度化までまっすぐつながるとは限りません。
受験後レビューとしての位置づけ
この記事は、必須科目Ⅰの公式な解説ではありません。合否や採点を予想するものでもありません。
あくまで、2026年度の受験後メモをもとに、実務者として「インフラDXをどう読んだか」を整理するものです。
必須科目Ⅰは、社会全体の課題を踏まえて、建設部門の技術者として課題、対策、リスクを整理する性格が強いと思います。そのため、どうしても大きな言葉を使いたくなります。
インフラの価値向上。インフラサービスの高度化。新技術の活用。データ駆動型の維持管理。予防保全。省人化。
どれも重要な言葉です。
ただ、答案として書くなら、それらを実務課題へ落とし込む必要があります。そうしないと、「新技術を入れればよい」という浅いDX論になりやすい。
今回の問題を振り返ると、私が気になったのは、現場情報や成果品情報がそもそも使いやすい形で整理されているのか、という点でした。
設問に対して自分がどう読んだか
このテーマで最初に思い浮かぶのは、新技術です。
- AI
- ドローン
- BIM/CIM
- センサー
- データ連携
- 遠隔監視
- 三次元データ
- クラウド型管理
もちろん、これらは重要です。インフラの維持管理、点検、補修、更新、災害対応を高度化するうえで、新技術の活用は避けて通れません。
ただし、実務者としては、その前段にある問題も気になります。
そもそも、点検結果、写真、評価、コメント、補修履歴、台帳情報が、きちんと再利用できる状態になっているのか。
現場で得た情報が、帳票、Excel、PDF、写真フォルダ、システム、電子納品フォルダに分散していないか。
判断基準が、担当者やベテランの暗黙知に依存しすぎていないか。
地方公共団体ごとの様式差によって、標準化やデータ連携が途中で止まっていないか。
このあたりを整理しないまま、新技術だけを書いても、実務の詰まりに届きにくいと感じました。
実務上の構造整理
インフラDXの難しさは、現場に新しい機器やシステムを入れることだけではありません。
むしろ、既存業務の構造が複雑なまま残っていることが大きいと思います。
属人的管理
まず、属人的管理です。
維持管理業務では、経験者の判断が重要です。変状の見方、過年度成果との比較、補修の優先度、発注者への説明、成果品の確認。これらは、単純な入力作業ではありません。
一方で、経験者の頭の中にだけ判断基準があると、組織として再利用しにくい。
若手が同じ水準で確認するのが難しい。担当者が変わると、見落としや判断のばらつきが起きる。最終確認が特定の人に集中する。
これでは、新技術を導入しても、結局はベテランの確認待ちになります。
DXを考えるなら、すべての判断を機械化するのではなく、判断基準を言語化し、チェック項目化し、記録として残すことが必要になります。
地方独自様式
次に、地方独自様式です。
建設コンサルタント業務では、同じような成果品でも、発注者や自治体ごとに様式が異なります。項目の並び、表現、入力欄、写真台帳の形式、一覧表の列、PDFのまとめ方が違う。
この差分は、システム化の大きな障害になります。
国や業界全体で標準化が進んでも、実務の最後にはローカルな様式が残ることがあります。そこで、人間がExcelを直し、Wordを直し、PDFを作り、写真台帳を整え、照合する。
ここが詰まると、新技術で取得したデータも、最終的には手作業の成果品整理に戻ってしまいます。
二重入力
三つ目は、二重入力です。
同じ情報が、次のような場所に分散します。
- 帳票
- Excel
- 写真
- 管理システム
- 電子納品フォルダ
- 過年度成果
同じ橋梁名、部材名、径間番号、写真番号、損傷区分、評価、コメントを、複数の帳票やシステムに入力する。修正が入ると、それぞれを直す。
この作業は、単に時間がかかるだけではありません。
入力箇所が増えるほど、表記ゆれ、転記ミス、更新漏れ、整合不良が起きやすくなります。つまり、二重入力は生産性の問題であると同時に、品質リスクでもあります。
新技術が活きる条件
新技術そのものを否定するつもりはありません。
ドローンで点検できる範囲が広がる。センサーで状態を継続的に把握できる。AIで画像確認を支援できる。BIM/CIMで構造物情報を立体的に扱える。これらは非常に有効な方向です。
ただし、取得した情報が後段で使えない形になってしまうと、効果は限定されます。
たとえば、ドローンで大量の写真を取得しても、写真番号、部材、変状、コメント、帳票の記載が後から人力で整理されるなら、作業負担は残ります。
センサー情報があっても、点検調書や台帳、補修履歴と接続できなければ、判断材料として使いにくい。
AIが変状候補を示しても、その結果をどの帳票へ、どの形式で、どの責任境界で反映するのかが決まっていなければ、実務には乗りません。
インフラDXで大事なのは、新技術で情報を取ることだけではなく、その情報を業務の中で使える状態にすることです。
そのためには、既存業務のデータ構造、帳票運用、様式差、確認手順を整理する必要があります。
技術士論文として難しいと感じた点
必須科目Ⅰの難しさは、テーマが大きいことです。
大きなテーマほど、きれいな言葉でまとめやすい。インフラ価値向上、持続可能な維持管理、防災・減災、予防保全、データ連携。どれも必要です。
しかし、答案では「それを阻害している実務上の原因は何か」を示さないと、対策が浮きます。
今回のテーマであれば、私は次のように整理する方が実務感に合うと感じました。
まず、インフラサービスを高度化するには、状態把握、評価、判断、対策、記録をつなげる必要がある。
しかし現状では、情報が帳票、Excel、PDF、写真、システムへ分散している。さらに、地方独自様式や二重入力があり、判断基準も属人的になりやすい。
そのため、新技術を導入しても、情報が後段で再利用されにくい。
したがって、対策としては、新技術活用とあわせて、データ形式の整理、帳票運用の標準化、照合ルールの整備、整合確認の効率化、人間が判断すべき箇所の明確化が必要になる。
この流れであれば、DXが単なる流行語ではなく、実務課題への対策としてつながります。
維持DXの文脈への接続
維持DXが扱っているのは、大規模な統合システムそのものではありません。
むしろ、DXの前段にある帳票、転記、様式差、整合確認の摩擦です。
建設コンサルタント実務では、現場で取得した情報を、最終的に成果品として整える作業が必ず残ります。Excel帳票、Word帳票、写真台帳、PDF成果品、電子納品フォルダ。これらが分散すると、修正や確認の負担が大きくなります。
インフラDXを実務へ落とし込むには、この分散を無視できません。
新技術で情報を取得する。AIやセンサーで確認を支援する。そこまではよいとして、その情報をどう整理し、どの帳票へ反映し、どこで人間が確認し、どこで整合確認するのか。
この後段の設計がなければ、DXは現場の追加作業になってしまう可能性があります。
維持DXでは、こうした小さく見えるが実務上は重い摩擦を減らすことを重視しています。新技術の効果を実務に乗せるには、帳票とデータの整理が必要だからです。
注記
※本記事は、2026年度 技術士第二次試験の受験後メモをもとにした筆者個人の振り返りです。合否判定前の私見であり、公式な模範解答・採点基準・合否判定を示すものではありません。実際の設問文は、日本技術士会等が公表する正本を確認してください。
まとめ
インフラDXは、新技術を並べるだけでは実務に届きません。
AI、ドローン、BIM/CIM、センサー、データ連携は重要です。しかし、それらで取得した情報が、帳票、Excel、PDF、写真、システムの中で分断されていれば、インフラサービスの高度化にはつながりにくい。
受験後に振り返ると、必須科目Ⅰで考えるべきだったのは、新技術そのものの説明よりも、既存業務の構造的な詰まりだったと感じます。
属人的管理、地方独自様式、二重入力。これらを整理しないままDXを語ると、現場には追加負担だけが残る可能性があります。
新技術を活かすためには、その前段として、データ構造、帳票運用、照合手順、整合確認の設計が必要です。
その意味で、インフラDXは派手な技術導入だけでなく、地味な実務整理から始まるのだと思います。
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