技術士二次試験で悩んだ品質と生産性の両立

技術士二次試験

導入

2026年度の技術士第二次試験、建設部門の鋼構造及びコンクリートで、個人的に最も悩んだのは、選択科目Ⅲの「品質を確保しながら生産性を向上させる」という趣旨の問題でした。

建設DX、AI、BIM/CIM、i-Construction、標準化。書こうと思えば、使えそうな言葉はいくつもあります。ところが、実際に答案として組み立てようとすると、単に技術名を並べただけでは論理が立ちませんでした。

むしろ難しかったのは、技術を書くことではなく、課題をどこに置くかです。

品質確保と生産性向上は、現場感覚では簡単に両立するものではありません。品質を守ろうとすれば確認が増えます。確認を増やせば時間がかかります。時間を減らそうとして確認を削れば、品質リスクが増えます。

この関係をどう整理するか。受験後に振り返ると、この問題は建設DXを考えるうえでもかなり本質的だったと感じています。

受験後レビューとしての位置づけ

この記事は、技術士第二次試験の正解解説ではありません。合否を予想するものでもありません。

あくまで、受験後メモをもとに、実務者として「この設問はどう難しかったのか」「建設DXの課題設定として何を考えるべきだったのか」を整理する記事です。

選択科目Ⅲでは、社会的な課題を踏まえ、自分の専門分野で複数の課題を挙げ、最重要課題を選び、対策とリスクを整理する構成になりやすいと思います。

そのとき、品質と生産性を別々に並べると、答案の骨格が弱くなります。

たとえば、

  • 品質確保が必要である
  • 生産性向上が必要である
  • DXを導入する
  • AIを活用する

と並べても、何となくそれらしく見えるだけで、なぜその対策が必要なのかが見えにくい。品質と生産性がどう衝突しているのかを説明しないと、論理の芯ができないと感じました。

設問に対して自分がどう読んだか

私がこの問題で悩んだのは、「品質管理が必要」という話にしてしまうと、あまりにも普通すぎるからです。

公共工事や建設コンサルタント業務で品質管理が重要なのは当然です。照査、照合、承認、検査、記録。これらが必要であること自体は、いまさら課題として挙げても弱い。

一方で、実務では品質を守るための運用そのものが重くなっています。

たとえば、品質確保のために次のような作業が増えます。

  • 多重チェック
  • ベテランによる全件確認
  • 独自様式への転記
  • 詳細な書類作成
  • 複数段階の承認
  • Excel帳票とPDF成果品の照合
  • 修正後の再確認

これらは品質確保のために必要な作業です。ところが、増えすぎると生産性を下げます。さらに、転記や再入力が増えることで、新たなミスの発生源にもなります。

つまり、問題は「品質管理が不足している」だけではありません。

私なりには、「品質を維持するための業務運用が非効率になっている」という形で捉える方が、品質と生産性の関係を説明しやすいと感じました。

この読み方にすると、単にチェックを減らす話ではなくなります。

品質を守るために発生している作業を、どう整理し、どう標準化し、どこを自動化し、どこを人間の判断として残すか。ここに建設DXの論点が出てきます。

品質と生産性はなぜ衝突しやすいのか

建設分野では、品質低下の影響が後から大きく表れることがあります。設計、点検、補修、施工、維持管理のどこかで確認不足があると、後工程や供用後のリスクにつながります。

そのため、確認を減らせばよい、という話にはなりません。

一方で、確認作業は人手に依存しやすい。特に地方の建設コンサル実務では、少人数で複数業務を抱えながら、発注者様式、社内様式、元請様式、電子納品、写真整理、台帳整理を並行して処理することもあります。

品質確保のために帳票が増える。帳票が増えるから転記が増える。転記が増えるから照合作業が増える。照合作業が増えるから、さらに確認時間が増える。

この循環が、品質と生産性の両方を悪化させます。

ここで大事なのは、「品質確認を減らす」のではなく、「品質確認が必要になる構造を整理する」ことだと思います。

同じ情報を何度も入力しているなら、一度入力した情報を再利用する。複数帳票へ転記しているなら、元データを揃えて帳票を生成する。目視で整合確認しているなら、確認対象を自動で洗い出して、人間が見る範囲を絞る。

この方向であれば、品質を軽視せずに生産性を上げる説明になります。

実務上の構造整理

受験後に改めて考えると、この問題はかなり維持管理実務に近い話でした。

特に大きいと感じるのは、次の三つです。

属人的管理

まず、判断や確認がベテランの経験に依存しやすいことです。

どの変状を重く見るか。どの帳票のどこを確認すべきか。過年度成果と今回成果のどこが変わったか。電子納品前にどこを見れば危ないか。

こうした判断は、実務経験がある人ほど自然にできます。しかし、自然にできるということは、手順化されていない場合も多いということです。

属人的管理そのものを否定する必要はありません。経験に基づく判断は重要です。ただし、すべてを個人の記憶と勘に頼ると、品質確保と生産性向上の両方で限界が出ます。

地方独自様式

次に、地方独自様式の問題です。

同じような内容を扱っていても、自治体や発注機関ごとに様式が違う。項目名、配置、入力ルール、写真台帳の作り、一覧表の並び、PDF成果品のまとめ方が微妙に異なる。

この差分は、外から見ると小さく見えるかもしれません。しかし実務では大きな摩擦になります。

標準的なシステムや汎用ツールを入れても、最後は独自様式へ合わせる作業が残ります。ここで手作業の転記や整合確認が発生しやすい。

二重入力

三つ目は二重入力です。

現場で記録した情報を、Excelへ入れ、Wordへ入れ、写真台帳へ入れ、管理システムへ入れ、PDF成果品へ反映する。しかも修正が入ると、すべてを直し直す必要がある。

この状態では、品質を守るための確認作業が、さらに品質リスクを生みます。

入力箇所が増えるほど、表記ゆれ、転記ミス、更新漏れ、修正漏れが増えるからです。

対策として何を考えるか

この問題への対策は、単なる時短ではなく、品質を守るための運用改善として考える必要があります。

方向性としては、次のようなものが考えられます。

  • 判断基準の標準化
  • チェックリスト化
  • AIによる確認支援
  • データ形式の標準化
  • 帳票自動生成
  • 整合確認の自動化

ただし、ここでも注意が必要です。

AIを入れれば品質が上がるわけではありません。自動化すれば確認が不要になるわけでもありません。標準化すれば地方独自様式の問題が消えるわけでもありません。

むしろ大事なのは、人間が判断すべきところと、機械的に処理できるところを切り分けることです。

たとえば、変状評価や対策要否の判断は、最終的には技術者の責任で行う必要があります。一方で、同じ橋梁名、部材名、写真番号、評価区分、コメントを複数帳票へ転記する作業は、なるべく機械的に処理した方がよい。

また、整合確認も同じです。最終的な妥当性判断は人間が行うとしても、「どこが変わったか」「どの帳票で差が出ているか」「確認すべき行はどこか」を機械的に洗い出せれば、人間の確認はかなり絞れます。

技術士論文として難しいと感じた点

このテーマで難しいのは、書こうと思えば何でも書けてしまうことです。

DX、AI、BIM/CIM、ICT施工、データ連携、遠隔臨場、クラウド、標準化。どれも関係があります。

しかし、関係がある技術を並べても、設問への答えにはなりません。特に品質と生産性の両立では、対策が課題に接続していないと、単なる流行語の列挙に見えます。

私が受験後に感じたのは、最初に「品質を維持するための非効率な運用」を中心課題として置けるかどうかが重要だったということです。

この中心課題を置ければ、属人的管理、地方独自様式、二重入力という課題がつながります。そこから、判断基準の標準化、帳票整理、自動転記、整合確認、AIによる確認支援という対策にもつながります。

逆に中心課題がぼやけると、品質と生産性が別々の話になり、論理が分散します。

維持DXの文脈への接続

維持DXで扱っているのは、作業を雑に省くための自動化ではありません。

建設コンサルタント実務では、品質を守るために多くの確認、記録、転記、照合が発生します。その作業をすべて人力で抱え続けると、担当者の負担が増え、かえってミスも増えます。

維持DXの関心は、まさにその部分です。

  • 一度入力した情報を再利用する
  • Excel帳票やWord帳票への転記を減らす
  • 写真台帳や一覧表の作成負担を下げる
  • 修正後の整合確認をしやすくする
  • 人間が判断すべき箇所に集中できるようにする

これは、品質を軽く見る話ではありません。

品質を守るために発生している非効率を減らす。確認をなくすのではなく、確認すべき箇所を見つけやすくする。属人的な確認を、再現性のある作業へ寄せる。

今回の試験問題を通じて、建設DXの入口は派手な技術名よりも、こうした実務運用の整理にあると改めて感じました。

注記

※本記事は、2026年度 技術士第二次試験の受験後メモをもとにした筆者個人の振り返りです。合否判定前の私見であり、公式な模範解答・採点基準・合否判定を示すものではありません。実際の設問文は、日本技術士会等が公表する正本を確認してください。

まとめ

品質確保と生産性向上は、簡単に両立する言葉ではありません。

品質を守るために確認を増やせば、生産性は下がります。生産性を上げるために確認を省けば、品質リスクが増えます。

だからこそ、課題設定は「品質管理が必要」ではなく、「品質を維持するための業務運用が非効率」という方向で整理する方が、実務感に合うと感じました。

建設DXは、確認を減らすための言い訳ではありません。品質を守りながら、転記、照合、帳票整理、整合確認の負担を減らすための考え方です。

技術士試験の論文としても、実務の改善としても、この視点は今後もかなり重要になると思います。

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